私は天使なんかじゃない
勝利への条件
勝つ為には条件がある。
フラグを立てよう。
「私はミスティ、よろしく」
「そう」
状況は好転しない。
ここは牢獄。
私が最初にいたエリア内にあるのか、また別にあるのかは知らないけど、牢獄なのは確かだ。出入り口にはフォースフィールドのようなもの。出るには外部から開けさせるしかない。
もしくは内部からも可能なのか?
それは分からない。
それは分からないけど、まずは囚人同士の和解が必要だ。
相手は裸。
アブダクトされたのは確かだ。
今、私の銃を持っている。
目だけ動かして見える範囲を見渡して見渡してみるけどアサルトライフルは見当たらない。多分ジャンプする際に落としたのだろう、あるのであれば彼女が私に向けているはずだし。
すぐに撃つ気がない?
うん。
それは間違いない。
撃つ気ならとっくに撃ってる。
情報収集したいんだろうね、私から。だからすぐには撃たれない、すぐにはね。必要とあればあっさり撃ちそうだけど。
撃つのを躊躇うことは?
……。
……ないなー。
笑みを浮かべているけど目は笑ってないし、口元に浮かんでいる笑みはどこまでも冷たい。
返答間違えたら死にます。
嫌だなぁ。
ああ、補足。エイリアンは死んでいるようで全く動かない。死んだ振りだとしたら大したものだ。
さて。
「ねぇ、あんた」
「はい?」
「今の日付は?」
PIPBOY3000で確認済みだから正確な日付は分かってる。
私は答える。
「2277年8月18日ですね」
私がボルト101で大暴れしたのが昨日。
くっそ。
何の因果なんだ、これは。
いきなりパパがいなくなったと思ったらこんな展開の連続だ。
それにしてもここの時間の流れは不思議だ。
まだ一日も経過していない。
エイリアンの謎技術?
しっかしひたすらに理不尽だ。展開が理不尽だー(泣)
「それは確か?」
「PIPBOYで確認済みですので」
「なるほど。三日間ここにいるのか。それにしては腹は減らない。排泄の欲求もない」
「エイリアンの謎技術です」
「なるほど」
納得したのか?
まあいい。
ともかく自分が得体のしれない生命体に拉致られていることは認識しているようだ。だとしたら話は早い。少なくとも人間同士で手を組むことはできるはずだ。
拉致られた年代も同じみたいだし。
「あの、お名前は?」
「あんたは?」
「名前言ったじゃないですか」
「素性を言いな」
「素性」
「言わなければ殺す」
目は笑ってないですから。
怖いなぁ。
「エイリアンが化けているのかもしれないからね。素性が怪しいと感じたら撃つ」
ターコリエンみたいなことを言う人だ。
別に隠すこともないし話すか。
「ボルト101出身です」
「ボルト101?」
「はい」
「モハビ?」
「モハ……はい?」
「モハビ・ウェイストランドじゃないのかい?」
そんなものもあるのか。
「キャピタル・ウェイストランドです」
「ああ、じゃあ東海岸か」
「はい」
「ふぅん」
まじまじと私を見てから、それから彼女は一歩引いて胡坐をかいて床に座った。
裸なんですけど。
見えてるんですけど。
「マリアよ」
「どうも」
展開が一歩前進。
私はゆっくりと身を起こす。別に制されることはなかった。銃は向けられているけど。
「不死身の女ソルジャーって呼ばれている。それなりには有名だけど、あんたには分からないようだね」
「すいません」
「いいさ、別に。それで? ボルトの人間がどうしてここに?」
「父親を追って外に出たら、誘拐されました」
「そりゃ災難だね」
「マリアさんは?」
「グラップラーを蹴散らして帰ろうとしたらここにいたのさ」
「グラップラー?」
個人名?
組織名?
分からん。
「バイアス・グラップラー。西海岸のモハビ・ウェイストランドの武装組織だよ」
「へー」
「NCRやリージョンが侵攻してくる前から連中はいた。当初はNCRもリージョンも潰そうとはしてたけどね、手も足も出ずに負けて以来手出ししないようにしてる。ふん。腰抜けどもが」
「へー」
はっきり言って意味が分からない。
私は自分の問題で手一杯。
つまりパパの一件。
西海岸まで考えようとは思えないし思わない。適当に相槌をしているようなものだ。
「でもマリアさんは戦っている?」
「昔はモハビ中にあたしらみたいなのがいたものさ。だがほとんどの奴らは戦って死に、生き残った人間は街を追われてしまった。あたしはそんな生き残りなのさ」
「へー」
「グラップラーを束ねているのはグラップラー四天王と呼ばれる4人のボス。いずれ劣らぬ凶悪な奴らだよ。そんな奴らが仲良く組織を作っているとはとても思えないけどね」
どこも大変なんだなぁ。
四天王、か。
凄いのがいるもんだ。
グラップラー四天王を束ねる奴が組織のラスボスなんだろうか?
「あっ」
その時、出入り口のフィールドの前をエイリアンが通り過ぎた。
巡回か。
……。
……ちらっと見て通り過ぎたけど、戻ってきた。まあ、でしょうね。
フィールドに張り付いて何か叫んでいる。
そりゃそうだ。
全く見覚えのない囚人、つまりは私がいるわけだし。もしくはエイリアンの死体を見たからか。たぶん両方だ。フィールドが消失、向こうからフィールドを切ったのだろう。
「馬鹿が」
ばぁん。
電撃ビリビリ棒を手に突撃してくるエイリアンはマリアさんの銃弾でそこに倒れた。
脆い。
ま、まあ、私ならビリビリされてビクンビクンするんだろうけど。
おおぅ。
「弱いね」
「テクノロジーさえ使えなければそんなに強くはないです」
「行くよ、ミスティ」
相棒ゲット。
とはいえ気になることはある。
「あの、マリアさん」
「何?」
「その、少し隠しましょうよ」
「女は見せて綺麗になるのさ」
「……」
凄い人だ。
私は電撃ビリビリ棒を拾いマリアさんに続く。
脱獄からのやり直しはきついけど仲間がいるのはいいことだ。
さあ、行くか。
マリアさんと一緒にエンジンコアに戻る。
私が前にいた牢獄とはまた別の区画だったけど、エンジンコアまではPIPBOYで登録済みだからナビで戻れた。戻っている最中、マリアさんとは少し喋った。
息子さんがいることとか、まあ、そんなこと。
わりと寡黙だし私を警戒しているんだろうな、あまり喋りたがらないから話は弾まない。
まあ、いいんですけど。
敵はいなかった。
少なくとも道中は。
「これは……」
「死んでるね」
エンジンコアに舞い戻った私を待っていたのは倒れている2人の兵士。
ターコリエンの部下だ。
床に転がっていたアサルトライフルを掴むと周囲を警戒。
敵は、いない。
「マリアさん、周囲を警戒してください。私は、死体を調べたいので」
「分かった」
彼女に任せて死体の見聞。
外傷は……ないな。
ただ異様に血液が散らばっている。アーマーも血に染めている。この染具合から察すると……喉元か。だけど傷はない。脈もない。何で死んだんだろう?
もう1人の兵士も同じ感じだ。
喉を触ってみる。
傷はない。
ねちゃ。
「ん?」
何かが手に付いた。
粘着性のある、透明な何か。手に刺激を感じる。臭いを嗅いでみる。思わず立ちくらみがした。何だ、これ。毒か?
エイリアンは毒を使うのか?
……。
……いや、そうだとしてもよく分からない。
血の噴き出し方が分からない。
謎だ。
「Mr.サムソンっ!」
叫ぶ。
ヤブ医者も後方支援でここに居残っていた。
探してみる。
だけど20分調べても痕跡1つなかった。
貨物倉庫。
地球から奪った銃火器、防具、食料や酒、そして自販機と様々な品物が貯蔵された場所。私たちからしたら宝箱のような場所だ。
エイリアンがどうしてこんなに奪ったかは謎。
使ってはないだろ。
少なくとも地球製の銃火器は使ってなかった。
ただのコレクションだろうか。
かもしれない。
結局仲間の死因も、Mr.サムソンの行方も謎のまま。探し続けるという選択肢は、なかった。仲間たちと合流しなければならない。
早急に。
マリアさんは服を着、自分のサイズに合うコンバットアーマーをその上に着込み、アサルトライフルとコンバットショットガンを手にした。腰にはピストルを帯びている。
「完全武装よ」
「よかったです」
10oピストルは返却され、私は新しいアサルトライフルをゲット。
当然弾薬もふんだんに。
よし。
そろそろ行くか。
仲間たちと合流しないと。
「ミスティ」
「何ですか?」
「あの穴は何?」
「穴?」
「穴」
指差す方を見る。
なるほど。
壁に穴が開いている。
人が通れるほどの大きさ。
基本的に収集は仲間たちに任せていたから……私はその間探索と足手纏い(号泣)していた……貨物倉庫には足を運んだことがない。
仲間たちは気付いたのかな?
それともスルー?
考えているとマリアさんはゆっくりと穴に近付いて行った。
私も続く。
わりと長そうだ。
先が見えない。だけど遠くに小さな光が見える。
「行きますか?」
「こういう先に最強の武器とかがあるんだよ」
さ、最強の武器?
にやりと笑ってマリアさんは進む。
ジョーク?
ジョークなのか?
わりとお茶目なのかもしれない。
私も続く。
トンネルは人が1人通れる程度の幅で長い。私たちは進む。敵の罠ってわけではなさそうだ、さすがに罠ではない……と思う。
数分ほど進む。
長いな。
ようやく出口に到達。
穴の先は小さな小部屋のような場所だった。配管が丸出しだったり配線が壁から飛び出していたり。多分建造された際の空白の場所、なのだろう。特に部屋としての認識があったとは思えない。
そう考えたら穴にしてもここに至るトンネルにしても荒削りだった。
誰かが後から作った道なのだ。
ガラクタの山がある。
そして1領の鎧。
いや。
あれはパワーアーマーか。
戦前のアメリカ軍が作った歩兵用の兵器。
そして……。
「敵っ!」
「待ってマリアさん」
誰かがいる。
パワーアーマーの側で何かを飲んでいる。ペットボトルの中身が何かは分からない、透明だ、水か酒か。
銃を構えようとするマリアさんを制して私は口を開いた。
「グールさん、ですか?」
「グールさんっていうのは、良いな。初めての呼称だが悪くない」
そこにいたのはグールだった。
この部屋、そして貨物室とここを通じる穴も彼が作ったのだろう。隠れ家、かな。
グールのことはボルトで習ったから知っている。
放射能の中から生まれた存在で長命と放射能への耐性を持つ。見た目が一昔前のゾンビ映画とかプロッチ先生は言ってたけど、別に怖くは感じない。
何故だろう?
ボルトの穴蔵育ちだからかな?
それにしても勉強というのはあまり宛にはならないな。この人、体のあちこちが光っている。もちろん服は来ている、露出している腕とかが斑に光っているのだ。
マリアさんを振り返る。
じっと彼を見ていた。
敵対?
いや、この視線は警戒、未知の物への警戒。
一般的なグールではないのかもしれない。
「私はミスティ」
とはいえ挨拶しなければ始まらない。
何が始まるかは相手次第だけど。
「ジョンソン・ブライトだ」
「どうも」
「こちらこそ。それで、このクソッタレな宇宙船の中で何をしているんだ? 無届けな散歩は禁じられているだろう?」
そこまで言ってから彼は肩を竦め、笑った。
「問題はエイリアンどもが届けを受け取ってくれないってことだがね。だからここでは永久に散歩禁止だ」
「あはは」
「ジョークの切れは落ちていないようだ。ヒューマンにしては珍しいな、私に対しての偏見がない」
「あー、ボルト出身だからかも。昨日出て来たばかりなので」
「それでも珍しいと思うよ」
「エイリアンのことをご存じなのですか?」
「そりゃそうだ、ここで自由に生きているからな。最初は面食らったが、確かに宇宙人がいるという情報は戦前からあった。ここはペンタゴンからも確認されていたからな」
「ペンタゴン?」
「国防総省さ」
「それは知ってますけど、そこにいたんですか?」
さすがに一般人が知っている情報ではない。
「君は頭が良いな」
「どうも」
「そうだ、私は戦前世代のグールでね、ペンタゴンにいた。この宇宙船……いや、幾つあるかは知らないからその言い方は間違いか。ともかくだ、宇宙船はペンタゴンで確認されていた。
だが確認できる時とできないときがあってね、むしろできないときの方が圧倒的に多かった。科学全盛期の当時でも、ここの文明には及ばなかった」
「ずっとここに?」
「そうでもない。ザイオンを旅している時に誘拐された。いつからかは知らない。随分と前からさ。自分探しの旅をしていた時だ」
「ザイオン」
どこだそれは?
世界は広いな、広すぎる。もちろん私はその広い世界全てを把握するつもりはない。パパさえいればそれでいい。
「それで、あなたはここで何を?」
「ビジョンだ」
「ビジョン?」
「人生の目標をここで行っているのさ。別に大したことははしていない。日曜大工の真似事をして時間を費やしている。何もしないと気が狂うからね。最近こいつが終わったから、次の目標を探しているのさ」
こいつ、パワーアーマーだろう。
「君はエイリアンのことをどこまで知っている?」
「チビ野郎ってことだけ」
「89%正解だ。後はこいつで補足するといい。えーっと……どこに……」
ガラクタの山、失礼、彼の日々の目標の中で作られたものの山を漁っている。
小型の四角い箱上の物を取り出して私に手渡した。
何だこれ?
「CDプレーヤーだ」
「はっ?」
骨董品かよっ!
珍しいもの見たなー。
「そこにエイリアンに拉致された人たちの言葉が録音されている。元々は連中の装置に録音されていたものを、そいつにコピーしてそいつに入れてある」
「へー」
お言葉に甘えて聞いてみるとしよう。
CDのスイッチオン。
『私はモリソン・ランド博士。オレゴン州にある大学で人類考古学を教えている。2041年8月16日午後10時を回った頃だった。キャンパスを出て私の車の向かう時、目の眩む光を見た。
そこで意識を失った。……気付いた時、私は眼を疑った。私はエイリアンの捕虜となったのだ』
『わ、私はアメリカ空軍のハーディガン大佐だ。我が国は有人飛行訓練を行ってきたがエイリアンの事はまったく予想していなかった。……お、おい。何をする気だ? ま、待ってくれ、知的生命体
同士お互いに学べ事があるはずだ。や、やめろっ!』
『くそくそくそくそっ! もう解放してくれっ! こんなのまともじゃない、病気だっ! 私は何もしてないし話す事なんて何もないっ! アンカレッジの所為なのか誓って言うが私は望んで行ったわけ
じゃない信じてくれっ! 戦場になんて行きたくなかった、本当はワシントンで働きたかったんだっ!』
『ナンダコノアリサマハっ! ヨウカイヘンゲカっ! ハナセ、イマスグっ! キコエンノカ、ハナセっ!』
『妻はどこだ? 息子は? 俺の家族は? ……神に誓うぞ、俺が自由になったらお前らは皆殺しだっ!』
『防御は軽歩兵の大隊が3つと野戦砲が34砲、装甲車が108台、それから軍用機が42機だ。ICBMが38基、ホワイトハウスから発射命令があればすぐに中国に撃てる。発射手順をアクティブにする
コードは……駄目だ、言えないっ! ううう、お、俺の心から出て行けーっ! コ、コードは、コードは……』
『最後のメッセージだ。もし俺が失敗したら誰かこの記録を持ち帰って欲しい。エイリアンの機械の使い方が分かった。連中が地球をどうしようとしているのかも。奴らは出来るだけ多くの人間を攫って
何やら醜い姿に変えようとしている。奴らの実験の為に何人も殺されたっ! 私達は狭い部屋に閉じ込められている。そして1人ずつ実験ラボに連れて行かれるんだ』
『私はどうにか脱出した。奴らは私の事を探している。救援部隊を送ってくれ。私に分かるのは奴らは数百人捕まえるまでやめないという事だ。もしかしたら数千人かもしれない』
『しかし良い知らせもある。奴らはテクノロジーに頼りきっている。それがなければ人間よりもひ弱な連中だ。充分な武装をした小部隊があればこの船を制圧し、捕虜を救出できると思う。人類に幸運をっ!』
そこで音声は切れた。
何か聞いたことがある声があったような?
それにしても気になることがあった。
連中、何故核攻撃のやり方を聞いていたんだ?
マリアさんも興味を覚えたようで私が疑問に思ったことを何気なく口にした。
「この世界はあいつらの仕業ってことかい?」
「そうか、知らないのか」
驚いたようにジョンソンさんは呟いた。
知らないのか?
どういうことだ。
聞いてみる。
「エイリアン核攻撃論は一般的ってことですか?」
「違う。そうではないよ。そうか、今の世代では伝説の大破壊を知らないんだな。真偽は私も知らない。とはいえ、私が下にいた頃は一般的な話ではあったよ」
「伝説の大破壊」
知らないな。
マリアさんも知らないらしい、顔には?と浮かんでいる。
ジョンソンさんは口を開いた。
「昔々のことだ。まだ世界に人間が一杯に暮らしていた頃の話」
語り口調は昔話。
戦前世代の彼の話は非常に貴重だ。
「突然、大地が揺れ動き、海がたけり狂った。そして毒の雨が長く降り続いた。その混乱が収まらぬうちに世界中のコンピューターが人間に反乱を起こしたのだ。誰も飛ばした覚えのないミサイル
が飛び交い、あらゆるネットワークが麻痺した。世界中で暴動が起こり、略奪や殺し合いが始まった。それが伝説の大破壊だよ」
「コンピューターの反乱」
「真偽は知らないけどね」
「へー」
「ところで」
彼はそこで一旦言葉を区切る。
「ところで、君はここに何をしに?」
「仲間が戦っていてるので武器を探しにここに」
「仲間。ああ、大尉の仲間か」
「大尉?」
誰だそれ。
階級、それは分かる。だけどその階級の持ち主が誰かが分からない。
ターコリエンか?
考えてみたら階級は知らないな。
だけど部下がいたんだ、もしかしたら尉官なのかもしれない。
「ターコリエンですか?」
「ターコリエン?」
「エリオット・ターコリエン」
「知らないな」
違うらしい。
じゃあ誰だ?
私の仲間で、他に大尉と呼ばれる人物は思い浮かばない。強いてあげるならポールソンだけど、彼はカウボーイだからなぁ。その前歴を知らなければ軍人と連想するだろうな。
「パターソン大尉だよ」
「えっと、知りません」
「そのようだ。随分前からゲリラ活動している人物だよ。使えそうな人材を開放したり解凍して部隊を編成している」
「へー」
「数にしたら50人ぐらいかな」
「あー」
そうか。
1つ謎が解けた。
エイリアンがこちらに戦力を割けなかったのはその大尉の部隊を警戒しているからだろう。
「さっきの録音の最後の人物だよ」
「なるほど。それで、ジェイソンさんは彼の仲間なんですか?」
「仲間かだって? まあ、これでも手先は器用な方なのでね。頼まれたら武器や防具の修理や改良を手伝っては来たが、私は基本誰にも属していない」
「そのパワーアーマーは?」
「こいつは趣味だ」
「趣味」
頼まれごとではないようだ。
「大尉はこいつを欲しがってはいたがね、自分の趣味だから渡さないでいた。人生には明確なビジョンが必要だ。そうしなければ生きていないのと同じだ。私にとっての身近な目標は、こいつの修復だよ」
「へー」
パワーアーマー。
戦前のアメリカ軍が開発していた代物だ。
これを着用した歩兵は絶大な防御力と、パワーアシストによって重火器を運用可能となったことで絶大な攻撃力を誇ったという。
「T-51bパワーアーマー、私が改良したがね」
「改良?」
「核融合バッテリーを使っているから出力はかなりの余裕がある。背部を見てみたまえ。大きいだろう? ジェットパックを付けてあるのさ。連続360分の飛行が可能だ。理論上はだが」
「あ、あはは」
滅茶苦茶なことするな、この人。
実用目的ではないからスペック的には、ってことなんだろうけど、こんなの怖くて使えないだろ。
核だとー?
暴走したら船に大穴が開きそうだ。
「楽しそうな話だがね、あたしらは切羽詰まってるから簡潔にしよう。あたしはここに留まりたくない、さっさと終わらせたい、その大尉とやらはどこに行った?」
マリアさんが鋭い口調で言った。
そりゃそうか。
私だってここに留まる気はないからさっさと戦いを終わらせたいし、それ以上に仲間たちと合流しなきゃ。
「大尉の居場所は知らない。言ったろ? 仲間ってわけではない」
「活動拠点は?」
「さあな。何しろここは敵の本拠地だ。仲間でない私に言うはずがないだろ、私から露見しても事だしな。ただ、誰かを探しているようだったな。ベンジーとか何とかという軍曹だ。誰だかは知らないが」
「どうする、ミスティ」
「あの、これを貸してく頂くわけには?」
パワーアーマーを指差す。
スペック的には空も飛べるしパワーアーマーの凄さは私もボルトで習ったから知ってる。
あるとないとでは戦力が違う。
是非とも欲しい。
是非とも。
ジョンソンさんは少し考え、それから私の眼をまっすぐ見た。
「何か?」
「人は誰しもが道を求めている。君は考えたことはないか? 人はどこから来て、どこに行くのか、私にはそのビジョンがまだ分からないでいる」
「えっと……」
哲学?
宗教?
いずれにしても興味はないな。
ただ、ジョンソンさんはその答えを自分で口にした。私に語りかけているというよりは自問自答、そんな感じだ。
「ではグールはどうだ? グールはどこから来て、どこに行く?」
「それは……」
「答えは明白だ。グールは放射能の中から来て、そしてどこにも行けない。それが真理だ」
「どこにも行けない?」
「そうだ」
どういうことだ?
真意も分からないし、そもそもここで私に問いかける意味も分からない。
言葉遊び?
かもね。
「世界は復興するだろう、人の道はまだまだ長い。故にその答えもない。だがグールは違う。我々は放射能の中から来た、そして世界が再建されればどこにも行けない。我々は次世代には行けないのだ」
「そうですね」
確かに。
確かにそれは間違っていない。
あくまでグールとはイレギュラーでしかない。放射能の中から生まれたイレギュラー。別にその存在を卑下はしていないけど、彼の導き出した答えは間違っていない。
突然変異なのだ。
これで生殖能力があれば話は変わるんだけど……グールに生殖能力はない。
あるのは異常な長命と、放射能の中で生きられる耐性だけだ。
なるほど。
間違ってはいない。
「私は常にそのことを考え、憂いている」
「簡単じゃないですか」
「……何?」
「ここに暮らせばいいだけでは?」
「ここに?」
「ここに」
宇宙人を掃討すればここは無人になる。
私は帰る。
マリアさんも帰りたがっている。
でも、少なくともターコリエンはここに居残ろうとしているし、他にも居残ろうとしている人はいるだろう。だとしたらここを遊ばせておく必要はない。住めばいい。問題解決。議論終了。新生活応援。
「そうじゃないですか?」
「ここに、か」
物資はある。
大量に。
私らを誘拐した時みたく地上から物資の引き上げも出来るのだろう、たぶん。飢えることはない。普通に空気もあるし。あー、そもそも飢えるということはないのか?
私は何も食べてないけど死なないし。
お腹は空く。
お腹は空くけど問題はない。
マリアさんは3日絶食みたいだし。おそらく食べようとしたら食べれるけど、食べることはないってことなのかな?
エイリアンの謎技術、ご都合主義万歳。
「だが勝手に住んでもいいものだろうか?」
「別に持ち主いませんし。あー、持ち主は今から掃討するんで、いなくなると言った方がいいのかな。空き家ですから別に遊ばせておく必要はないと思いますよ」
「……」
「たぶん残留する人もいると思うので、喧嘩しなければここで新しいコミュニティになるんじゃないかなって。別に地球に拘る必要はないでしょう?」
「君は面白いな。偏見もない。非常に柔軟だ」
「どうも」
「さて」
そう言ってジョンソンさんは笑った。
穏やかな笑み。
「実は面白い武器もあるんだ、ガウスライフルと言う。俗に言うところの、レールガンというやつだ。アンカレッジで試作品が初めて投入された。戦前最後の武器であり、最強の武器だよ。そこでだ」
「はい?」
「パワーアーマーとガウスライフルの使い方のレクチャー、初めてもいいかな?」
改良型T-51bパワーアーマー、ジェットパック付き。
ガウスライフル。
最強装備を入手っ!